野菜ソムリエの思ひ出の味
母がつくってくれたブロッコリーたっぷりのグラタン

 私の思ひ出の味は、ブロッコリーがたっぷり入ったグラタンである。実家に住んでいた頃、母がよくつくってくれたメニューだ。我が家では大きなガラス製の耐熱皿で家族分を一度に焼き、そこからみんなでなかよく取り分けて食べていた。幼少時はかなりの猫舌だった私。取り分けたものをだいぶ冷ましてから食べていたことを思い出す。グラタンは温かいからこそのおいしさもある。今となっては、あれはもったいなかったなと思ったりもする。

 母のつくるグラタンはマカロニが少なめで、鶏肉の他に、ブロッコリー、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、マッシュルーム、ほうれん草などたくさんの野菜が入っていた。具材の上には自家製のホワイトソースがかけられ、チーズ、パン粉もかけて焼き上げられていた。
 ブロッコリーが必ず入っていたのは、母が「ブロッコリーは栄養豊富」とのイメージを持っていたからだろう。ブロッコリーはゴロゴロと小房にカットされ、イチョウ切りのじゃがいもやにんじん、薄切りの玉ねぎなど他の野菜に比べて、そのサイズ感からもグラタン皿のなかでひときわ強い存在感を放っていたので、より印象に残っているのだと思う。
 私はグラタンが大好きで、母の手づくりグラタンが食卓にあがる日はとてもうれしかった。じつを言うと、当時の私は野菜があまり好きではなかった。でもこのグラタンなら野菜をたくさん食べられたのだった。

 社会人になって一人暮らしを始め、自炊をするようになった。自分でもグラタンをつくってみようと思い立ったある日、はたと気がついた。あのグラタンをつくるには、湯を沸かしてマカロニを茹で、ホワイトソースをつくり、ブロッコリーと根菜類はそれぞれカットして下茹でをし、玉ねぎと鶏肉もそれぞれカットして炒めなければならない。なんと手間のかかる料理だろう。あれだけの品目数の野菜を切るだけでも面倒だし、一人暮らしの自分には買い揃えた野菜を使い切れる自信も無い。すぐさまグラタンづくりは断念。と、同時に、わざわざ子どもが野菜を食べやすい献立にして手間をかけてつくってくれた母への感謝の気持ちがこみあげてきた。

 自炊によって日々の食事のバランスや栄養を考えるようになり、野菜にも興味がわいてきた。それが野菜ソムリエになろうと思ったきっかけだった。資格取得後は、スーパーに売っている見慣れない野菜を「試しに買ってみよう」とチャレンジするのが楽しい。直売所やいつものスーパー以外のお店にいくことも増えていった。
 母のグラタンの域に及ばないが、野菜を食べやすくする工夫は意識している。例えば、カレーにトマトやほうれん草をたっぷり入れて煮溶けて食べやすくしたり、ハンバーグや肉団子に根菜類を刻んで混ぜこんだり。ブロッコリーは蒸してから冷蔵庫に常備ストックもしている。そのまま食べたり、ゆで卵とマヨネーズで和えてサラダにしたり、ベーコンとにんにくで炒めたり。ブロッコリーはたんぱく質やビタミンも豊富なので、日常の野菜補給には重宝している。
 野菜ソムリエプロは今年の3月に取得したばかり。料理が苦手でも初心者な人でも手軽に野菜が摂り入れられることを伝えていき、より身近に感じてもらえる野菜ソムリエを目指したいと思っている。

かのこさんのプロフィール
東京都在住。野菜ソムリエプロ。1992年12月16日生まれの会社員。一人暮らし、初心者でも気軽に楽しめるベジフルライフを伝えていける野菜ソムリエになるために日々勉強中!
ホームページ:tsukuru_kanoko
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タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
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