野菜ソムリエの思ひ出の味
取材先で出遭った「ドラゴンフルーツのつぼみ」

 十数年前、沖縄のとあるリゾートホテルの鉄板焼きレストランを取材した時のことだ。最上級の沖縄県産和牛ステーキの付け合わせとして、沖縄県産のゴーヤー、紅芋のほかに、縦半分にカットされた何やら見知らぬ野菜のソテーが添えられていた。
ウロコが重なったような外見や花のつぼみのような断面は、アーティチョークに似ているけれど、それにしてはちょっと細長い。シェフにたずねると、「ドラゴンフルーツのつぼみ」だという。アーティチョークは外皮など食べられない部分があるが、ドラゴンフルーツのつぼみは、「すべてお召し上がりいただけます」とのことだった。

 撮影が終わって、ついに実食。ナイフで半分に切り、どきどきワクワクしながら口へと運ぶ。硬そうに見えた外側はなんなく歯が通り、繊維が気になることはなかった。青臭さやクセはなく、粘りけのある食感が特徴的だ。味付けはシンプルに沖縄の塩とこしょうのみだったが、同じ鉄板で焼いたステーキの肉汁を吸ってとても美味に焼き上げられていた。
 付け合わせに選んだ理由をたずねると、「ドラゴンフルーツはかなり知られてきたけれど、つぼみも食べられることはあまり知られていません。お客様に新鮮な驚きを感じていただけるかと思いまして。鉄板焼きの肉の付け合わせによく合うんですよ」とシェフ。おいしさだけでなく、その土地ならではの珍しい食材で、お客様に新鮮な驚きと喜びと感動を提供するという姿勢に、さすが一流リゾートの料理人だと感激した。ドラゴンフルーツのつぼみを見たのも食べたのもその日が初めてで、あまりのおいしさに驚いたことを伝えると、純白のコックコートとコック帽をまとって貫禄さえ感じさせる風貌のシェフが、「驚きました? そうでしょう!」とちょっとだけ得意気で悪戯っぽい少年のような笑顔を浮かべていたのが印象的だった。

 ドラゴンフルーツのつぼみは、今では直売所に並ぶこともあるが、その頃は非常に珍しい存在だった。見た目はまったく異なるがオクラとよく似た味わいと食感を持つ。おすすめはやはり、縦半分に切ってオリーブオイルやバターでソテーし、沖縄ではヒハツやピパーチの名で親しまれる島胡椒と、海のミネラルを豊富に含んだ沖縄の塩でシンプルに味付けする食べ方だ。天ぷらにして沖縄の塩で食べるのもおすすめである。

 当時は東京から沖縄に移住して8年ほど経っていたが、まだまだ知らない野菜や果物があることを実感し、驚きとともに探求心が湧き上がってきた。沖縄在住ライターとして沖縄の食に関わる機会も多く、かねてから専門的な知識を身に着けたいと思っていたことから、野菜ソムリエ講座受講へと至った。
 資格取得後は、シェフや農家さんが、同じ食の世界の仲間として対応してくださるようになり、情報交換を楽しみながら、より深く取材やインタビューを行えるようにもなった。野菜ソムリエ視点からのライティングや連載の仕事に加えて、商品開発やプロモーションのサポート、講座や講演などの依頼も増え、仕事の幅が一気に広がった。また、全国へ沖縄県産農産物の魅力を広めたいと常に考えるようになり、いつでも需要に対応できるよう、撮り溜めた沖縄産の野菜・果物の写真は150品目を超えている。
 本業はライティングだが、野菜ソムリエとして人前に立つ機会も増え、「野菜は健康にいい」と伝える自分自身が太っていては説得力がないと猛反省。野菜をたっぷり食べるダイエットでマイナス15kgの減量に成功し、周囲の声に応えてダイエット講座を立ち上げた。この活動が評価され、第6回野菜ソムリエアワードでは銀賞を受賞。全国の方に受講いただくには、どう運営すればよいのか模索する中で、事業展開を目標とする野菜ソムリエ上級プロの資格も取得。オンライン受講でも確実に減量を成功できるプログラムとなるよう、事業化に向けて一歩一歩準備を進めている。今後は、野菜ソムリエならではの視点を生かしながら、プロの書き手としても第一線で奮闘し続けたいと思っている。そのためには、生産者さんへの感謝の気持ちを忘れず、常に野菜・果物に対するアンテナを研ぎ澄ませ、好奇心と食いしん坊をモットーに精進する所存である。

堀 基子さんのプロフィール
沖縄県在住。野菜ソムリエ上級プロ。ジュニア青果物ブランディングマイスター、アスリートフードマイスタ―3級、ベジフルビューティ―セルフアドバイザー、アンチエイジングプランナー、受験フードマイスター、J Veganist、冷凍生活アドバイザー、感染症対策マイスター。野菜ソムリエライターとしての活動をはじめ、商品開発やプロモーションのサポート、自身の経験に基づくダイエット講座や講演、連載なども多数。第6回と第8回の野菜ソムリエアワードにて銀賞受賞。ベジコラボokinawa代表。
ベジコラボokinawaホームページ https://vege-collabo.com
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka