取材ノート
耕作放棄地をサポート付き貸し農園に再生!
誰もが手ぶらで楽しめる「シェア畑」(前編)

住まいや車、洋服など、さまざまな「シェア」商品が見られるなか、畑をシェアするサービスが存在することをご存知でしょうか? 市民農園との大きな違いは手ぶらで利用できること。しかもそれは、維持・管理できなくなった農地や遊休地の再生に一役買っている事業とのこと。農地を保全し、都市に住む人たちの農業への理解・関心を醸成する目的を持った「シェア畑」を運営する株式会社アグリメディア正木さんと、菜園アドバイザーの門川さんにお話を聞いてきました。

こどもの国線 恩田駅から徒歩6分にある「青葉森田体験農園」

なぜ、「シェア畑」を開設することになったのですか?

当社代表が不動産業時代に、高齢化が進んで有効活用されない農地管理の問題点に着目したことが、シェア畑開設の背景にあります。好立地の農地にもかかわらず、収益化出来ない制度上の課題解決を目的として事業を開始しました。
 
第1号農園は、2012年2月に開園した神奈川県横浜市神奈川区にある「シェア畑新横浜」です。サービス開始から7年以上が経過して、現在(2019年5月時点)は、関東圏と関西圏で93農園が稼働しています。
 
高齢化や担い手不足によって維持・管理できなくなった農地や遊休地が、誰でも気軽に利用できる「シェア畑」として再生されることで、農地の保全、都市に住む人たちの農業への理解・関心にもつながり、日本農業の発展に貢献できるのではと考えています。

流山おおたかの森 久兵衛体験ファーム
(画像提供:株式会社アグリメディア)

どのようなサービスを実施していますか?

畑のレンタルに加えて、自由にお使いいただける農具、資材、有機質肥料、種や苗なども各農園に用意しています。水道や井戸などの水場、トイレや休憩スペースも完備。それから、夏は新じゃがのカレー、秋は焼き芋や芋掘り、冬は芋煮会やお鍋など、季節と旬を感じるイベントも開催しています。栽培テキストの配布や経験豊富な「菜園アドバイザー」による手厚いサポートも。これらのサービスはすべて基本料金に含まれています。
 
詳しくは「シェア畑」のサイトをご確認ください。
シェア畑 オフィシャルHP

会員の方からは、「手ぶらだから気軽に挑戦できた」「ストレス発散に役立っている」といった感想をいただいております。

入会時に配布される「野菜づくりBOOK」。
野菜づくりの基本が、道具のことから詳しく紹介されている。

至れり尽くせりで、畑初心者には便利なサービスですね! 菜園アドバイザーさんはどのようなサポートをしてくれるのでしょうか?

お客様が作業しているときには区画を回り、不明点を解決できるよう個別にアドバイスをします。ほぼ毎月実施している講習会では、栽培ポイントの座学と実演を実施。お忙しい方でも参加できるよう、同じ内容を2週間連続で行うなどの体制も整えています。
 
菜園アドバイザーは、農家さんではなく、家庭菜園をきっかけに野菜づくりの魅力に取りつかれたスタッフが大半です。初めて畑に挑戦する方にも、同じ目線でわかりやすく、興味を持って菜園生活を送っていただけることを強く意識してサポートしています。

青葉森田農園の菜園アドバイザー 門川 正治さん。

門川さんも農家出身ではないのですね?

はい、かつては電機メーカーに勤務して、インターネット関連や人事などの業務を担当していました。DIYや園芸が趣味で、プランターで野菜を栽培したり、バラを育てたりしていました。定年後、シェア畑会員募集のチラシの隅に「菜園アドバイザー募集」の文字をみつけて応募しました。菜園アドバイザーになって、丸5年になります。
 
お客様に「こんなに採れたよ!」と喜んでもらえるのが何よりも嬉しいですね。シェア畑では、殺虫剤などの化学農薬や化学肥料は一切使わずに栽培するのがルールですから、畑で採ってすぐ洗わずに食べてしまうお子様もいらっしゃいます。自分で収穫したトマトやいちごをおいしそうに頬張る姿は見ているだけで幸せな気持ちになります。

完全無農薬栽培だから安心(画像提供:株式会社アグリメディア)

一方で、天候不順などから栽培に失敗してしまう方もいらっしゃいます。その場合は、私たちが農園の空きスペースで育てた野菜を差し上げて、採りたてを食べる喜びを楽しんでもらっています。

収穫間近の麦の穂。麦茶にしてイベントでお出しする予定とのこと。

どのような方がどんな風に利用されていますか?

小さなお子様がいるファミリーは食育のため、お子様が大きくなられたご夫婦は健康的な趣味として、シニアの方は定年後の楽しみとして、移住就農希望者は将来を考えて今のうちから少しでも経験をしたいなど、さまざまな方がいらっしゃいます。
 
また、保育園や幼稚園、高齢者・障がい者施設、会社の福利厚生など法人でご利用いただくケースも増えています。
 
シェア畑を利用いただく目的はさまざまです。
「新たなコミュニティができ、日々畑仲間と会える楽しみ」
「土に触れる、生命を育てる経験を子どもにさせてあげたい」
「ストレス解消に。身体を動かして健康的な生活を」
「自分で育てた無農薬野菜を採れたてで食べる贅沢」
「家族や友人との共同作業でコミュニケーションを豊かに」
など、それぞれに楽しんでいただければと考えております。
 
こちらの「青葉森田体験農園」は、最年少で野菜ソムリエプロの資格を取得された緒方湊くんも2区画利用していますよ。とても研究熱心な姿が微笑ましいです。

そうなんですね! では湊くんにもお話しを聞いてみます。

(後編へつづく)

取材協力・画像提供
シェア畑運営会社 株式会社アグリメディア
https://www.sharebatake.com/

photo
written by

タナカトウコ

/取材・文・撮影

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka