菜果図録
八代将軍の徳川吉宗の推し野菜!小松菜

 

 一年でもっとも寒さがつのるこの時期は、小松菜などの葉野菜が美味しくなります。その理由は、自らが凍るのを防ぐために糖度を高めるから。冷たい空気に触れることで、葉が厚く、緑色が濃くなり、厳寒期の小松菜は見るからに美味しそうです。年間を通じて店頭に出回っていますが、小松菜の旬は冬から春にかけてとされていて、冬に出回るものは濃い緑色のものは「冬菜」、みずみずしい緑色をした春のものは「鶯菜」とも呼ばれます。

 原産地はヨーロッパの地中海沿岸とされ、日本へは奈良時代から鎌倉時代の間に中国から伝来したカブの一種である「茎立菜」が起源ともいわれ、1709年に刊行された貝原益軒の「大和本草」には「葛西菜」の名で記されています。ちなみに「小松菜」の名付け親は、なんと八代将軍の徳川吉宗!鷹狩に出かけた吉宗が当時の小松川村で休憩した際、接待役を務めた亀戸香取神社の神主が、この地で育った青菜をあしらった餅の澄まし汁でもてなし、それをいたく気に入った吉宗が「小松菜」と名付けたのだそうです。そんな歴史もあってか、東京のお雑煮には小松菜が欠かせません。

 農林水産省が発表した令和5年産指定野菜(秋冬野菜等)の統計によると、全国各地で生産されていますが、その総収穫量121,200トンのうち、1位は茨城県28,500トン、2位は埼玉県13,000トン、3位は福岡県11,400トンとなっており、東京都は48,060トンでした。ちなみに発祥の地である東京都江戸川区では今なお盛んに栽培されていて、令和4年産の収穫量は2,677トンで、東京都全体の収穫量である6,604トンの約4割を占めています。

 

小松菜の種類

 小松菜の茎の左右に葉が添っている部分は袴と呼ばれ、葉が茎の部分まで長く発達する「有袴種」、葉と茎がはっきりと分かれたしゃもじ型の「無袴種」、その中間に当たる「中間種」がありますが、近年は「無袴種」が主流です。「有袴種」には「安藤早生小松菜」「新黒水菜」など、「無袴種」には東京都内の世田谷区、目黒区、大田区などで栽培されてきた江戸東京野菜にも数えられる「城南小松菜」など、「中間種」には「楽天」「きよすみ」などがあります。ちなみに、小松菜の故郷ともいえる東京都江戸川区では、かつてこの地にあった後関種苗が、晩生小松菜の一系統から固定した品種を「ごせき晩生小松菜」と名付け、昭和38年から市販して昔ながらの味わいを伝え、江戸東京野菜に登録されています。また、福島の「信夫(しのぶ)菜」、新潟の「大崎菜」や「女池(めいけ)菜」、関西の「大阪黒菜」など、各地で愛されてきた小松菜の仲間もあります。近年、人気を集めているのが、ちぢみほうれん草と同様に、寒さにさらされて葉に厚みとちりめん状の縮れが生じた「ちぢみ小松菜」です。さらに、小松菜とキャベツを掛け合わせた「千宝菜(せんぽうさい)」、チンゲン菜と掛け合わせた「友好菜」や「べんり菜」、タアサイと掛け合わせた「みこま菜」といった新顔の品種も登場しています。

 

小松菜の栄養学

 100gあたりの栄養価をチェックしてみると、免疫機能の強化や美肌に役立つビタミンC39mgで温州みかんよりも多く、貧血予防に欠かせない鉄は2.8 mg、骨の健康に欠かせないカルシウムは170mgと、いずれもほうれん草よりも豊富です。ちなみに、体内でビタミンAとなって粘膜や皮膚を健やかに保つ働きで知られるベータカロテンはほうれん草の約3/4に相当する3100μg、造血のビタミンとして知られる葉酸はほうれん草の約半分に当たる110μg、止血のビタミンと呼ばれるビタミンK210μg、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排出に役立つカリウムは500mg、食物繊維は1.9g含まれており、やはりほうれん草に負けず劣らず栄養価にすぐれた緑黄色野菜であることがわかります。

 

小松菜の選び方、保存法のコツ!

 

 購入の際は、葉が肉厚で丸みがあり、鮮やかな緑色で、茎が太めで、葉や茎に張りがあるものを選びます。保存するなら、軽く湿らせた新聞紙で包み、ポリ袋に入れ、葉を上にして立てた状態で冷蔵庫の野菜室へ。調理の際は、根元の茎の隙間に土が付着していることが多いので、しっかりと洗いましょう。また、小松菜は冷凍保存もおすすめです。よく洗って水気をきり、使いやすい長さに切って密封できる食品用ポリ袋に入れ、空気を抜いて冷凍しておくと、そのまま調理に使えて便利です。アクが少ないので、漬け物などで生食もできますし、加熱調理も短時間でOK。汁物や鍋の具、煮浸し、和え物、炒め物など様々な調理に向く万能野菜です。

 

カルシウムたっぷり小松菜ふりかけ

 小松菜に、ちりめんじゃこ、かつおぶし、白ごまを加えて、さらにカルシウム増し増し!ご飯や冷奴にかけたり、炊き立てご飯に混ぜ込んでも美味です。小松菜がたくさん手に入ったときに、たっぷり作って冷凍保存しておくと、お弁当などにもすぐに使えて便利です。今回はりんご酢を使っていますが、お好みの酢でどうぞ。

材料(2人分)
小松菜 5株
ちりめんじゃこ 30g
かつおぶし 2g
ごま油 大さじ1
白ごま 大さじ1
しょうゆ 大さじ1
みりん 大さじ1
小さじ2
きび糖 小さじ2
作り方
  1. 小松菜は細かく刻みます。
  2. フライパンにごま油を入れて中火にかけ、小松菜を入れて炒め、しんなりとしてきたら中央を空けてちりめんじゃこを入れ、ちりめんじゃこに酢を回しかけて吸わせながら炒めます。
  3. 全体に火が通ったら、しょうゆ、みりん、きび糖を加えて全体を炒め合わせ、仕上げにかつおぶしと白ごまを加えてよく混ぜて火を止め、水分を吸わせます。
photo
written by

堀 基子

/文・写真

野菜ソムリエ上級プロ。J Veganist。冷凍生活アドバイザー。アスリートフードマイスター3級。ベジフルビューティーセルフアドバイザー。ジュニア青果物ブランディングマイスター。アンチエイジング・プランナー。受験フードマイスター。第6回・第8回野菜ソムリエアワード銀賞受賞。