菜果図録
過酷な砂丘でも育つ生命力!らっきょう

 春から初夏へと季節が進む頃、新鮮ならっきょうが直売所などの店頭に並び始めます。らっきょうはユリ科ネギ属に分類され、原産地は中国のヒマラヤに近い地域といわれています。らっきょう、にんにく、にら、ねぎ、ひるを五葷(ごくん)と呼び、強い臭いが怒りや欲情を刺激して修行を妨げるとして、仏教では避けるべき食材とされています。中国では紀元前から薬用として栽培されており、日本へは9世紀頃の平安時代に伝来し、平安時代の「新撰字鏡」、「本草和名」、「延喜式」などにもその名が記されています。わが国でも当初は薬用として用いられていましたが、江戸時代には食用となり、栽培されるようになったといいます。

 農林水産省が発表した令和5年産野地域特産野菜生産状況調査の収穫量を見ると、第1位は全国の収穫量6,700トンの約1/3を占める鳥取県の2,300トン、第2位は鹿児島県の2,220トンで、宮崎県、徳島県、沖縄県、福井県と続きます。ちなみに、出荷時期を見ると、南の沖縄県がもっとも早い1月~9月、鹿児島県と高知県が4月~6月、宮崎県が5月~7月、徳島県と鳥取県と福井県が5月~6月、千葉県と茨城県が5月~8月、神奈川県が6月~7月となっています。

らっきょうの歴史と種類

 らっきょうの名産地と知られる鳥取県での栽培の歴史は古く、江戸時代の参勤交代の際に小石川薬園から持ち帰ったのが始まりといわれています。鳥取県といえば砂丘が有名ですが、らっきょうは水の少ない砂丘地でも栽培可能であるため、大正時代に本格的な栽培が始まり、戦後以降はスプリンクラー潅水が導入されて大規模栽培が本格化しました。「鳥取砂丘らっきょう」「ふくべ砂丘らっきょう」は地理的表示(GI)保護制度に登録されています。

 らっきょうの種類としては、大玉で細長い「らくだ系」と、小玉で丸型の「玉系」があります。沖縄で「島らっきょう」と呼ばれているものは在来種または「らくだ系」で、若採りしたもの調理に使います。また、表皮が美しい赤紫色をした赤らっきょうもあり、「らくだ系」と「淡路中高黄」を交配して生まれ、2000年に登録された、らっきょうとたまねぎのハイブリッド種「越のレッド」はとりわけ有名です。

 ちなみに、「エシャレット」は昭和30年頃に静岡県で商品化されたもので、土寄せして軟白栽培したらっきょうを若採りしたものに、西洋野菜のエシャロットに似ていることから、この名を付けたのだそうです。しかし、エシャロットはたまねぎの一種で、エシャレットとはまったくの別物です。

らっきょうの栄養学

 らっきょうの100g当たりの栄養価の中でも、特に注目したいのが水溶性食物繊維で、にんにく4.1gの約4.5倍、たまねぎ0.4gの46.5倍に相当する18.6gも含まれています。水溶性食物繊維が多い野菜の中でも、ごぼう、モロヘイヤ、グリンピースなどの上位を押さえての堂々の1位です。水溶性食物繊維は、腸内環境を整えるのに役立つ他、食後の血糖値の上昇を抑えたり、コレステロールを吸着して体外に排出するのを助けたりする働きも期待できます。また、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排出を促すカリウムも230mg含まれています。

 らっきょう特有の辛みと匂いの成分は、たまねぎと同様に、硫化アリルの一種であるアリシンによるものです。アリシンは、消化液の分泌を促して消化機能を高め、糖質のエネルギー代謝を助けるビタミンB1の吸収を促すため、ビタミンB1を豊富に含む豚肉や大豆製品、糖質を含む炭水化物などと一緒に食べると、疲労回復に役立ちます。

らっきょうの選び方、保存法、調理のコツ!

 購入の際は、外皮に傷がなく、丸みを帯びているもの、白色で粒がそろっているもの、洗ってある状態であれば光沢のあるものを選びます。芽が伸びているものは収穫から時間が経っているので避けましょう。

 らっきょうは芽が伸びやすいため、できるだけ早く使います。保存の際は、水洗いして皮をむき、芽と根を切り落とし、塩漬け、甘酢漬け、しょうゆ漬けなどに。

 調理法としては、塩漬けや甘酢漬けが定番ですが、生のままマヨネーズやみそを付けて食べたり、刻んで薬味のようにして使うのもおすすめです。沖縄では辛みの強い島らっきょうをチャンプルーやみそ炒めにしたり、天ぷらにして楽しみます。

らっきょうのラビゴットソース

たまねぎで作るラビゴットソースを、生のらっきょうで作ってみたら、よりパンチのあるフレッシュな風味に仕上がりました。今回は鮭のソテーにかけましたが、魚や肉のソテーにかけてよし、鶏のから揚げに添えてよし、サラダのドレッシングに加えてもよし。カラフルな見た目も食欲をそそり、食卓が華やぎます。

材料(2人分)
らっきょう 10個
きゅうり 1/2本
ミニトマト 5個
オリーブオイル 大さじ2
りんご酢 大さじ2
小さじ1/4
こしょう 少々
作り方
  1. らっきょうは洗って皮をむき、芽と根を切り落とし、縦4等分に切ってから粗く刻みます。
  2. きゅうりは縦4等分に切ってから粗く刻み、ミニトマトは4等分または8等分に切ります。
  3. オリーブオイル、りんご酢、塩、こしょうを合わせ、すべての材料を加えて混ぜ、なじんだら出来上がりです。
*ユリ科ネギ属

外皮に傷がなく、丸みを帯びているもの、白色で粒がそろっているもの、洗ってある状態であれば光沢のあるものを選びます。芽が伸びているものは収穫から時間が経っているので避けましょう。

種類:「らくだ系」、「玉系」、「越のレッド」、「エシャレット」などがあります。

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written by

堀 基子

/文・写真

野菜ソムリエ上級プロ。J Veganist。冷凍生活アドバイザー。アスリートフードマイスター3級。ベジフルビューティーセルフアドバイザー。ジュニア青果物ブランディングマイスター。アンチエイジング・プランナー。受験フードマイスター。第6回・第8回野菜ソムリエアワード銀賞受賞。