野菜ソムリエの思ひ出の味
ニュージーランドの果樹園で食べたネクタリン

2015年10月14日UP
 20代の頃、ニュージーランドで1年半ほど暮らしたことがある。滞在していたのは、北海道の気候によく似ているといわれる南島だった。農作業の手伝いなどをして過ごし、環境に配慮した循環型の農業スタイルやオーガニックの考え方などに触れ、感銘を受けることも多かった。

 晩夏の頃だったろうか、輸出用フルーツも栽培している大規模な果樹園で、ネクタリン収穫の手伝いをしたことがあった。はさみを使って丁寧に収穫しながらも、変形や傷みなど見るからに規格外のネクタリンは手でもぎ、その場で食べながら作業をすることもあった。もぎたてのネクタリンにかぶり付くと、甘酸っぱく芳醇な香りがした。そしてリンゴのようなしっかりとした食感だった。その味わいにすっかり虜となったのだが、日本ではあのネクタリンを超えるものにいまだ出会えていない。

 ネクタリンの収穫は、果樹園の家族をはじめ、近所の方、知人友人まで総動員での作業。当時小学3年生くらいだった果樹園の息子さんも手伝っていた。ふと見ると、彼がつまみ食いしようとしていたネクタリンに、なにかの幼虫のような虫がついていた。注意してあげると「僕の胃液の方がはるかに強い」といった言葉が返ってきた。そして軽く払い、特に気にする様子もなく食べ続けていた。小さな出来事ではあったが、ニュージーランドの子どもの生きる力の強さを感じた。人間に必要なのは教科書に書いていることだけではなく、自然の営みの中で得られる知識も重要だと、人間力について改めてその大切さを教えられた気がしたのだった。当時の経験の数々は、現在の仕事にもつながっている。

 帰国後、野菜の事業を始めることにしたのは、意識の高い生産者さんの仕事をもっと多くの人に知ってもらいたかったからだ。そして、お客様に信頼していただくため野菜・果物の知識をもっと身につけたいと思い、野菜ソムリエの資格を取得。現在は、安全野菜の販売、メニュー提案や商品開発のお手伝い、食育や野菜に関する講座の講師も務めるなど、生産者と生活者の橋渡し役としての事業を展開し、環境を守るため事業や野菜ソムリエの活動で関わる方々に循環型農業の大切さを伝え、日々の暮らしに活かせる暮らし方の提案もしている。今後は、より深い知識を身につけて、個々が食に対してより良い選択をしていけるよう、子どもだけでなく大人向けの食育も手がけていきたいと思っている。

大宮あゆみさんのプロフィール
北海道在住、野菜ソムリエ。オーガニックコンシェルジュ、北海道フードマイスター、札幌市中小企業支援アドバイザー。フリーライターとしてグルメや旅の情報を執筆。現在は、(有)GreenHands代表。生産者と生活者の橋渡し役として野菜に関わる事業を展開中。
(有)GreenHandsホームページ http://www.greenhands.co.jp/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ