野菜ソムリエの思ひ出の味
おじいちゃんが届けてくれた桃太郎トマト

 思いおこせば、幼い頃から実家を出る18歳まで、我が家の食卓には常にトマトがあった。それは祖父が育てて届けてくれていた桃太郎トマトだ。母も私も弟二人も、その祖父のトマトが大好きだった。
 月初めにはいつも箱いっぱいのトマトを抱えた祖父がやってくる。「トマト持ってきたぞー」という祖父の声が聞こえると、私はうれしくて、「ヤッター!トマトきた!」と声をあげながら玄関まで駆けていった。笑顔でトマトを差し出す祖父に、母は「いつも、ありがとう。トマトばかりじゃなくても…」と時には言いつつもうれしそうだった。祖父は「おれがトマト好きだから!丸かじりして食べるのが一番うまいんだぞ!食べろ、食べろ」と笑っていた。
 祖父の教えにしたがって、トマトはいつも丸かじりで食べていた。塩も何も使わない。それも祖父が「何もつけずに食べたほうがおいしい」と言っていたからだ。幼い頃から丸かじりしていたおかげで、すっかり丸かじりが得意になった。コツは、おしりのほうを小さくひとかじり。そしてゼリー状部分を吸う。その繰り返しで、手や服を汚すことなく食べられるのだ。

 祖父が届けてくれたトマトは、時期によって、大きさ、色あいが違っていた。若々しくてかたい時もあれば、真っ赤に完熟している時もあった。その時々で、香りや甘みを強く感じたり、酸味を感じたり。同じ真っ赤なトマトでも甘さが弱い時もあり、見た目が同じに見えても、食感、甘さの違いがあるのか!?と幼いながらに感じたものだった。
 母と長男はかたく酸味があるトマトが好みで、私と次男は甘いトマトが好みだ。みんなで感想を言い合いながら食べる時間も大好きだった。私にとって「トマト」は、家族が一緒に過ごす時間そのものでもあった。
 今は私も母となり、息子もトマトが大好きである。私はいまだに丸かじりで味わっているが、あいにく息子は丸かじりが苦手なようである。「プチュッ(汁が出ちゃう)ってなるから、切って」と言う。味の好みについては、私と同じらしい。トマトが甘かった時は、笑顔で「おかわりある?」と言ってくる。

 さて、野菜ソムリエという資格を知ったのは5年ほど前のことだ。野菜・果物が大好きで、家族のため、自分のためになることをなにかしたいと迷っていた時だった。そして2017年に野菜ソムリエの資格を取得。現在は、野菜ソムリエプロの資格取得に向けて奮闘中である。そのきっかけは、ボランティアで、知的障害・発達障害をもった方々と関わるなかで、農業を取り入れていると知ったことにある。農作業をする作業所があり、障害があっても働けること、野菜をつかったお菓子があることなど、もっと付加価値をつけて積極的に発信できないかと感じたからだった。
 今後の活動としては、日本野菜ソムリエ協会のアテンド業務、365マーケットでの記事作成やマルシェ販売員などを予定している。ゆくゆくは、みんなで楽しい時間を過ごせるなかに野菜があるようなイベントを企画し、親子で楽しめる野菜ソムリエを目指したい、そして障害者福祉にも取り組みたいと思っている。

玉利 沙織さんのプロフィール
神奈川県在住。野菜ソムリエ。都内レストランにて、お客様に野菜の魅力をお伝えしたり、野菜ジュースを考案している。趣味は、食べ歩き散歩、サーフィン。自分らしく日々を楽しむママ野菜ソムリエである。
インスタグラム:tama30ri
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka